Samさんへ捧ぐ



 Samさんは、2009年に他界されました。私の知る限り、最も偉大なPSOプレイヤの一人でした。
 「Sam姐さん」という名で知られていたプレイヤを知らない人でも、セガに対して「PSOサーバのユーザへの運営移管の嘆願署名」を送った方として知っている方は多いかも知れません。
 実は、私を含めたとある業界ではかなり有名な方で、ファンも多数おられた方です。ただ、それとは別に、PSOプレイヤとしても偉大でした。

 私が彼女と一緒に過ごしたのは、たかだか4年程度と、決して長くはないと思いますが、それでもSamさんの30年来の親友で、彼女を良く知る方からは、
「年数は関係ありません。とても濃密な関係の4年間を過ごされたのでしょう」
というお言葉を戴きました。

 彼女のプレイは、お世辞にも超一流という訳ではありませんでしが、それでも、他のプレイヤに気を使ったプレイは、人柄が滲み出ているものでした。そして何より向上心旺盛で、あらゆる事を吸収してうまくなろうとするプレイスタイルは、ゲーマとしての本質に訴えかけ、共感を呼ぶものでした。

 個人のPSOプレイヤとしてと同時に、社会派でもあった彼女は、他のプレイヤのための活動も盛んにされていました。公式BBSで重要な不具合の報告をソニックチームが隠蔽のために削除しまくっていた頃、そうして露頭に迷ったプレイヤを救うために「PSO談話&相談室」の運営を開始しました。
 その後、公式サーバの閉鎖を前にして「PSOサーバのユーザへの運営移管の嘆願署名」を行い、それがセガに拒否された後は、チーム瑞原螢運営のサーバ「メトセラ」の立ち上げに協力戴き、また、ご自分のサーバ「エシャラ」を立ち上げる事となりました。

 公式認証サーバの閉鎖という技術的な問題で「エシャラ」の運営継続が不可能になった後は、一層「メトセラ」の運営にご協力戴きました。
 この頃は、二人で、
「将来的にはサーバプログラムも整備して、『メトセラ』と『エシャラ』だけのサーバ群を作ろう」
などと夢を語り合っていました。
 その一方、Schthack側のAleron Ivesらの暴言を実際に目にして心を痛め、「PSO談話&相談室」からSchthack関連情報の殆どを削除するに至りました。社会派である彼女は、私が思っていたのと同様に、彼らの自己中心的な運営方針が許せなかったのです。表向き、穏やかに事を進めたい彼女でしたが、その怒りを表す手段として、コンテンツの削除を選んだのです。

 私ともとても懇意にして戴いた彼女ですが、(そもそも言うべき事はズバリ言うという態度を続けていたため)見た事もない人から(特に、「痛いプレイヤ&チータリスト」だけ見た人から)嫌われる事が多かった私としては、何故、私の事を嫌う事無く接してもらえるのかがむしろ不思議で、単刀直入に尋ねてみた事がありました。
 すると、彼女は、
「私は実際に付き合ってみて、Thiraさんがどれだけ他のプレイヤの事を考え、活動しているか知っているし、他のプレイヤを陥れるために嘘を書くような人だとも思わない。リストに書かれている事はThiraさんにとっては実際に経験した事実だろうと思う。勿論、私の知っている人に関して、必ずしも私の感じた事とは一致しないけど、それは個人の感じた事であり価値観の相違だから、それを理由に私がThiraさんを嫌いになる事はない」
と平然と言ってくれたのでした。
 この件で、私は彼女が本当に大人なんだなと実感し、一層好きになっていきました。
 それどころか、かつて公式サーバのトラブルが多発した頃、プレイヤの助けに奔走した礼として、彼女から(照れながら)オンラインでとある(別にレアでもなんでもないけど)アイテムをプレゼントされました(私以外にも、何人かにプレゼントしたそうですが)。全く、彼女は友達殺しです。その心のこもったプレゼントは、今も私の倉庫に大事に取ってあります。

 また、私はよく年頭の挨拶に、
「今年こそ、少なくとも私だけは幸せでありますように」
と書くのですが、これに対して多くの(あまり文章の読解力が無かったり、相手の気持ちを考える事の出来なかったりする)人は、
「自己中心的で我侭だ」
と批難するのですが、Samさんはその言葉の真意をすぐに見抜いた二人の内の一人で(ちなみに、もう一人はチーム瑞原螢の主宰ですが)、
「Thiraさんて優しい人なんだね」
とまで声を掛けてくれた、本当に他人の気持ちを良く分かる優しい人でした。

 公式サーバ閉鎖後、オンラインでは誰よりも彼女と多くの時間をすごしたと自負できます。お互い人見知りという事もあって、彼女とは妙に気の合うところがありました。興味や関心の向く方向が似ていたり、そして何よりやりたい事が山積なところがそっくりで、よく共にプレイしたり、語り合ったりしていました。
 彼女はSFについても造詣が深かったため、PSO自体のの世界観についてもよく語り合いました。その多くは、公式には語られていない、風習、風俗、地下文化、犯罪、闇社会等に関するものでした。多くの半可通が否定的だった「NPCハンターズ事典」や、隠しコンテンツである「リコ・ログ」に関しても、肯定的な意見を戴きました。

 とにかく、やりたいと思った事は何でも自分でやろうとするバイタリティの持ち主だった彼女は、PSOやご自分のPSO関連サイトに関しても積極的でした。特に、公式サーバ閉鎖後のプレイヤ交流の場所を自負していた「PSO談話&相談室」では、公式のビジュアルBBSを再現しようとしていました。そのため、スクリーンショットをJPEGに変換する方法として、私がフーリエ変換を教えたところ、それを元にして自分でCGIスクリプトの作成を始めたほどでした。

 彼女の病気が分かったのは、忙しさのあまり健康診断を受けなかったという僅か1年の翌年でした。今も私は、この時に病気が見つかっていればと、悔しくて仕方ありません。
 それでも、共に死を身近に感じた事があるという共通点が増えた彼女と私は、一層交流を深めていました。
 むしろ、彼女が自分のサイト上に病気を匂わせる事を書いたにも関わらず、気が付いたのが私だけだった事について、
「男どもは鈍いねぇ……」
などと笑い合ったものでした。

 手術後、薬の副作用に苦しみながらも元気に活動されていましたが、やがて再入院となり、その後に小康状態を保ってはいたものの、とある夜に容態が急変し他界されてしまいました。
 私は彼女の病状に薄々気が付いてはいたものの、確認する勇気が無かったため、その事実を知るのが遅れてしまいました。これも今となっては自分の勇気の無さを後悔せざるを得ません。
 5年生存率91%と言われた病気でしたが、かつて私が師匠に言われた通り、
「確率は統計に過ぎず、個にとってはオール・オア・ナッシングである」
というのを実感せざるを得ませんでした。

 誰よりもPSOプレイヤの事を考え、メトセラと私の良き理解者であったSamさん。その彼女を失ったことは、悔恨に絶えません。
 私としても、PSO関連作成物の多くは彼女に捧げるつもりで作業をしてきましたし、彼女の復帰までによりよいプレイ環境を整えようと努力してきただけに、やる気自体が根こそぎ削がれてしまうような状態でした。

 人当たり良く、誰にでも優しかった彼女でしたが、メトセラ上で私と二人きりの時に限っては、よく愚痴を垂れたり、毒を吐いたりしていました。それだけ私に心を許していてくれたのだと思い、今では寂しく思いながらも、少し嬉しくも思います。
 かつて私が、
「Samさんが人当たり良くしてる分、私が他の人にキツい事を言えるんだから、ここ以外で毒を吐いちゃ駄目だよ」
と言うと、彼女は、
「Thiraさんが嫌われ役を買って出てくれて、厳しくても誰かが言わなきゃいけないことを言ってくれてるからこそ、私がつなぎ役を出来てるんだよ」
と笑ってくれてもいました。
 それだけに、本当に辛い思いです。半身を失うような思いとは、まさにこのような事なのでしょう。

 勿論、闘病中も前向きで、復帰する事だけを考えていた彼女は、自身が他界する事などは前提としていませんでしたので、今後の事について決して多くの言葉を残したわけではありません。
 ただ、最期まで全てに対して前向きに取り組み、勇気を持って戦い続けたSamさんに敬意を表し、また、やりたい事が山積だったにも拘らず、道半ばで生涯を終えられた事に対する無念を思い、ここに記録として残します。
 そして、Samさんの遺志を継ぎ、今日という日が二度と無いことを心に刻み、ハンターズとして一日一日を精一杯前向きに送ることをここに誓います。

 以上、本職とは思えないような支離滅裂な文章で申し訳有りませんが、今に至っても失った物が大き過ぎて、彼女の事を思う度に真っ当な精神状態で文章を書けませんので、どうぞご容赦下さい。

 なお、メトセラ上で「偲ぶ会」、オフラインにて「おくる会」が催されました事を付記しておきます。


文責 : Thira CLONE(大)


 
「Samさんを偲ぶ会」スクリーンショット

Samさん追悼集合写真
 
弔砲写真
 

 
ムービー
在りし日(2008年7月16日)のSamさんとのC5
King.N(HCT) rico tyrell(FML) Sammy(HNL)
 

 
「Samさんを偲ぶ会:一周年」スクリーンショット


2010年08月15日 2010年08月22日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:二周年」スクリーンショット

2011年08月18日
 


2011年08月21日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:三周年」スクリーンショット


2012年08月16日 2012年08月18日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:四周年」スクリーンショット


2013年08月17日 2013年08月18日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:五周年」スクリーンショット


2014年08月16日 2014年08月17日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:六周年」スクリーンショット

2015年08月16日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:七周年」スクリーンショット


2016年08月18日 2016年08月20日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:八周年」スクリーンショット

2017年08月19日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:九周年」スクリーンショット


2018年08月17日 2018年08月18日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:十周年」スクリーンショット


2019年08月16日 2019年08月18日
 

2019年08月19日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:十一周年」スクリーンショット


2020年08月14日 2020年08月15日
 

2020年08月18日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:十二周年」スクリーンショット


2021年08月19日 2021年08月20日
 

2020年08月21日
 

 
「Samさんを偲ぶ会:十三周年」スクリーンショット

2022年08月20日
 


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